「サラダ記念日」(俵万智)

斬新な中にも短歌という形の安心感

「サラダ記念日」(俵万智)河出文庫

「この味がいいね」と君が言ったから
      七月六日はサラダ記念日

一大ブームとなった
俵万智のサラダ記念日。
当時私はまだ大学生でした。
流行に乗っかって
ハードカバーの本をすぐに買いました。
あれからもう
30年以上経っていたとは…。
いつかは取り上げたいと
思っていました。
あまりに有名すぎて
今さら取り上げるのも
気が引けるのですが。

この曲と決めて海外沿いの道
  とばす君なり
     「ホテルカリフォルニア」 

あの頃読んで、
のっけからぶっ飛んだ一首です。
これが短歌か?
高校の頃教科書で習った短歌とは
似ても似つかぬもの。
でも、その新鮮な感覚に
酔いしれました。
ベストセラーになるのもうなずけます。

思いっきりボリュームあげて
  聴くサザン
   どれもこれもが泣いてるような

短歌とは風光明媚な景色を
詠むものという先入観がありました。
仕方ありません。
高校で習った短歌は
皆そのようなものでしたから。
でも、短歌に「サザン」。
流行のバンド名がそのまま載るなんて。
目から鱗でした。

シャンプーの香を
  ほのぼのとたてながら
      微分積分子らは解きおり

シャンプーと微分積分。
歌の中に取り込まれる
言葉の組み合わせの妙。
これにも驚かされました。
既成の概念にとらわれない試みは
かくもフレッシュな感動を与えるのかと
唸った記憶があります。

まちちゃんと我を呼ぶとき
  青年のその一瞬のためらいが好き

そして歌の材料の多くが恋愛。
もちろん昔の歌人も
恋の歌をたくさん詠みました。
でも、こんな読む方が
恥ずかしくなるような歌は、
それまであったでしょうか。

「寒いね」と話しかければ
 「寒いね」と答える人のいる
           あたたかさ

何気ない生活の一場面を
見事に切り取った歌も
俵万智の特徴の一つでしょう。
決して言葉遊びで
終わっているわけではない、
完成した短歌がそこにあります。

前回取り上げた寺山修司の短歌と
どこがちがうか。
それは俵万智の短歌が、
新しい言葉と表現を
取り入れながらも
五七五七七の枠に見事に
収まっていることでしょう。
斬新な中にも
短歌という形の安心感があるのです。

さて、本書出版は1987年。
私にとってはいまだに
目新しさを失っていない本歌集ですが、
今の中高生は
どのようにとらえるのでしょうか。
中学校2年生あたりに
お薦めしたい一冊です。

(2020.2.12)

Christine SponchiaによるPixabayからの画像

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